おもちゃと遊びで、子どもの発達を育てる視点
子どもが夢中でおもちゃを握ったり、ボールを追いかけたりする姿には、その年齢なりの成長のヒントがたくさん含まれています。月齢や年齢に合ったおもちゃは、ただ時間を過ごす道具ではなく、「できた」という小さな達成感を積み重ねるためのきっかけになります。特別な知育玩具でなくても、身近な道具や簡単なおもちゃが、心とからだの発達をじわじわと支えていきます。
ここでは、おもちゃや遊びを通して発達を促すときに持っておきたい考え方を、「小さな達成感のくり返し」という言葉でまとめてみます。少し難しいかなと感じることと、少し頑張ればできそうなことの間にある遊びを選び、短い時間を何度もくり返すことで、子どもは自分なりのペースで力を伸ばしていきます。保護者は、その流れを意識するだけで、おもちゃ選びや声かけがぐっと整理しやすくなります。
月齢や年齢に合うおもちゃで、小さな達成感を重ねる
生まれて間もないころから、子どもは目の前の世界に少しずつ働きかけ始めます。生後数か月の赤ちゃんには、握りやすいガラガラや布絵本のような、手のひらに収まり、触ったときに音や手ざわりが返ってくるおもちゃが向いています。握る、口にもっていく、振ると音が鳴る、といった一連の動きは、偶然から始まり、やがて自分の意思で「もう一度やってみよう」という行動につながっていきます。
少し大きくなってきたら、積み重ねることで形が変わるスタッキング玩具や、箱に物を入れたり出したりできるおもちゃが活躍します。思い通りに積み上がる、崩れる、もう一度挑戦するという流れの中で、目と手を協力させる力や、考えながら待つ力が養われます。研究でも、おもちゃ遊びが認知的な発達や社会性に関わる可能性があることが報告されており、遊びの場が学びの場にもなっていることが示されています。
手指を使う遊びで、考える力と集中力を育てる
手先をたくさん動かす遊びは、細かい動きの練習になるだけでなく、「どうしたらうまくいくか」を試行錯誤する経験にもつながります。ガラガラを握って振る、布絵本のページをめくる、コップ同士を重ねる、穴にブロックを入れてみるといった動きは、一見単純ですが、目で形や向きを確かめながら手を動かす必要があります。この繰り返しによって、物を観察する力と、集中して取り組む姿勢が少しずつ育ちます。
うまくつかめなかったり、積み木が倒れてしまったりする場面も、決して無駄ではありません。保護者が「もう少しこっちだね」「今のもよく頑張ったね」と声を添えることで、失敗そのものが次の挑戦へのステップに変わります。結果だけでなく、試している過程を認める言葉を増やすと、おもちゃは「できないことを突きつける物」ではなく、「一緒にチャレンジする仲間」のような存在になっていきます。
全身を動かす遊びで、バランス感覚と体幹を支える
ねがえりやハイハイ、歩き始めの時期には、全身を使った遊びが欠かせません。柔らかいボールを転がして追いかけたり、低い位置の押し車を押して歩いてみたりする経験は、足腰の筋力だけでなく、バランス感覚や空間の捉え方を育てます。ボールがどちらへ転がるかを目で追い、体の向きを変えながら動くことで、見ることと動くことを同時に調整する力が磨かれていきます。
このとき意識したいのは、安全で動きやすい環境づくりです。滑りにくい床を選び、段差や角のとがった家具、誤飲の危険がある小さな物をあらかじめ片づけておくと、子どもは安心して体を思いきり使えます。厚生労働省が示す資料でも、遊びを通した多様な体験が生きる力の土台になるとされていますが、その前提には「安心して動ける場を大人が整える」という視点があります。おもちゃそのものだけでなく、遊ぶ場全体をひとつの環境として見ていくことが大切です。
まねっこ遊びやごっこ遊びで、ことばと社会性を育てる
少し大きくなると、子どもは大人のしぐさや言い回しをよく観察し、自分なりにまねしながら遊びに取り入れ始めます。電話をかけるまねをする、お医者さんのまねをしてぬいぐるみを診察する、キッチンセットで料理をして家族に振る舞うといったごっこ遊びは、現実の体験を自分の中で整理し直す作業でもあります。この過程で、「おいしいね」「どうぞ」「ありがとう」といった基本的なやりとりの言葉や、相手の気持ちを想像する力が育っていきます。
遊びの中では、言葉にならないサインも重要です。うなずく、首をかしげる、物を見せに来る、顔をじっと見るなど、さまざまな仕草が「話しかけ」の役割を果たしています。保護者がそのサインに気づき、「見せてくれたのね」「もう一回やりたいのかな」と言葉を添えることで、子どもは自分の気持ちが伝わる経験を重ねます。この積み重ねが、ことばの発達と社会性の芽生えを支えます。
まねる遊びで、会話のリズムと安心感を広げる
簡単な歌や手遊び、いないいないばあのような遊びは、親子のまねっこを楽しむ絶好の機会です。同じ動きをくり返しながら、顔の表情や声の調子が少しずつ変化することで、「次はどうなるかな」と期待する気持ちが生まれます。大人の声や表情を安心できるものとして体験することは、後の会話の土台にもなります。医療機関や子育て支援の情報でも、こうした日常的な遊びが情緒の安定に役立つと紹介されています。
このような遊びでは、難しい言葉を増やす必要はありません。むしろ、「来たね」「できたね」「うれしいね」といった短い言葉を、状況に合わせて何度も繰り返すことが、子どもにとって分かりやすく、まねしやすい学びになります。おもちゃはそのきっかけにすぎず、実際の主役は、顔を見合わせて笑ったり、同じ動きを共有したりする時間そのものだと考えると気持ちが少し楽になります。
ごっこ遊びで、気持ちのやりとりとルール感覚を育てる
ごっこ遊びが盛んになってくると、役割分担や簡単なルールも生まれてきます。お店屋さん役とお客さん役を決める、順番に電車の運転手になるといった約束を通して、「今は自分の番ではない」「ここまでが遊び」という感覚が育ちます。これは後の集団生活で必要になる社会性の一部です。友だちとのごっこ遊びでトラブルが起きたときも、「どんな気持ちだったのか」「どうしたかったのか」を丁寧に聞き取っていくことで、気持ちの言葉を身につける機会にもなります。
ごっこ遊びに使うおもちゃは、専用のセットでなくてもかまいません。空き箱や布、ペットボトルのふたなど、家庭にある物を安全な範囲で活用するだけでも、子どもは豊かな想像力で遊びを広げていきます。おもちゃコンサルタントや小児科医の実践でも、特別な玩具より、子どものアイデアを引き出すシンプルな道具が重視されていることが紹介されています。大人が遊び方を決めすぎず、「どうしたい?」と問いかけながら一緒に考えることも、ごっこ遊びの大切な要素です。
遊びの時間と環境を、親子が無理なく整える
発達を意識すると、「この月齢にはこのおもちゃを与えなければならない」「もっと知育になる遊びをしなければならない」とプレッシャーを感じる保護者も少なくありません。けれども、遊びの土台にあるのは、子どもの好奇心と、安心して試せる環境です。厚生労働省の資料でも、遊びを通じて心身の発達が促されることと同時に、子どもを取り巻く環境への主体的な関わりが重要だと示されています。完璧なおもちゃ選びより、「今目の前の子が興味を持っているかどうか」を手がかりにするほうが、親子ともに楽になります。
遊びの時間も、長さより質を意識すると気持ちが軽くなります。毎日長時間つきあう必要はなく、数分から十数分の短い遊びを、そのときの機嫌や生活リズムに合わせて何度かくり返すだけでも十分意味があります。疲れているときや余裕がないときは、保護者が一歩引いて見守りつつ、ときどき声をかけるだけでも大丈夫です。「いつも完璧な遊び相手でいること」ではなく、「時々しっかり向き合う瞬間をつくること」を目指すくらいが、現実的な落としどころかもしれません。
短い時間をくり返して、心地よいリズムをつくる
子どもにとって、遊びは楽しさであると同時に、体力も使う活動です。集中して遊べる時間は年齢によって変わりますが、乳幼児期には特に短く、数分から数十分程度で疲れてしまうことも多くあります。短い遊びを何度もくり返すことで、疲れすぎを防ぎながら、「始まりと終わり」の感覚も身についていきます。遊びが終わるときには、「あと一回転がしたらおしまいにしようね」と、見通しの持てる声かけをすることで、切り替えもスムーズになります。
遊びの途中で子どもが他の物に気を取られたり、飽きてしまったりすることも自然な姿です。そのたびに「集中力がない」と心配するのではなく、「今はここまで楽しめた」と受け止める視点を持つと、親の心も少し軽くなります。大人が用意した遊びに最後まで付き合わせようとするより、子どもの興味が移ったタイミングを一緒に観察し、次に何をしたいのかを対話のきっかけにしていくほうが、長い目で見ると発達の支えになります。
安全と自由さを両立した、遊び場の整え方
おもちゃの安全性も忘れてはいけないポイントです。日本では、乳幼児が口に入れたり舐めたりするおもちゃについて、食品衛生法に基づく基準が定められています。誤飲の危険がある小さな部品がないか、塗装がはがれていないか、壊れた部分でけがをしないかなど、日常的にチェックしておくと安心です。また、年齢別の表示や対象年齢の目安は、おもちゃを選ぶときの参考になります。
一方で、安全性に気を配りすぎて、子どもの動きを過度に制限してしまうと、挑戦する機会が減ってしまうこともあります。危険な物や場所をあらかじめ取り除いたうえで、「この範囲なら自由に動いて大丈夫」というゾーンを決めると、大人も子どもも過ごしやすくなります。児童館などで行われている遊びのプログラムに関する調査研究でも、環境を工夫して子どもの主体的な遊びを引き出すことが、健全な成長にとって重要だとされています。家庭でも、すべてを完璧にしようとせず、「ここだけは安心して遊べる場所」をつくるイメージで取り組むと良いでしょう。
おもちゃと遊びは、発達を点数化して測るためのものではありません。今日できなかったことが、明日突然できるようになることもあれば、しばらく興味を示さなかった遊びに、ある日ふと夢中になることもあります。保護者にできるのは、その波を横から支えながら、「今、この瞬間の楽しさ」を一緒に味わうことです。そうした積み重ねの中で、子どもの中には、目に見えない力が静かに育っていきます。
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おもちゃと遊びで、発達を支えるための参考情報
遊びを通して、子どもの成長を支える公的な考え方
子どもが環境に主体的に関わることで心身の発達が促されること、遊びを通じて仲間との関係を育み、その中で個の成長も進むことなどが整理された資料です。乳幼児期が生涯にわたる生きる力の基礎になるという視点から、遊びと発達の関係が示されています。
厚生労働省 資料 子どもは、遊びを通して心身の発達を促される 厚生労働省公式サイト 資料PDF
乳幼児の遊びとおもちゃが、発達に与える影響の研究
乳幼児の遊びやおもちゃ遊びが、認知的発達や社会情緒の発達などにどのように関わるかを整理した調査研究報告です。道具やおもちゃを使った遊びと発達の関連について、国内外の研究をもとに検討しており、家庭での遊びを考えるうえで参考になる知見がまとめられています。
こども家庭庁 科学的知見の充実・普及に向けた調査研究 乳幼児の遊びと子どもの育ち こども家庭庁 調査研究報告書PDF
発達段階とおもちゃ遊びの関係を、学術的に整理した論文
幼児の発達段階とおもちゃ遊びのかかわりについて検討した論文です。年齢に応じた遊びの内容や、おもちゃの特徴と発達との関係が解説されており、月齢や年齢に合った遊びを考えるヒントになります。
中谷陽子 幼児の発達段階とおもちゃ遊びの研究 子どもと発育発達 CiNii Research 論文情報ページ
小児科医による、遊び方とおもちゃ選びの実践的な解説
小児科医であり母親でもある筆者が、脳の発達を促す遊び方やおもちゃ選びについて紹介している記事です。五感を使う遊びや、家庭で取り入れやすい工夫が具体的に書かれており、日常の遊びにすぐ活かせる内容になっています。
ベネッセ教育情報サイト 遊びは脳にとって最高の栄養 小児科医が実践する遊び方とおもちゃ選び ベネッセ教育情報サイト 記事ページ
