気になるサインを、ひとりで抱え込まない
我が子を見ていて「少し何か違うかもしれない」と感じる瞬間は、多くの保護者に訪れます。視線が合いにくい気がする、名前を呼んでも振り向かないことが多い、からだの動きがとても硬そうだったり、反対に力が入りにくそうに見えるなど、はっきりと言葉にしにくい違和感だからこそ、不安が大きくなることもあります。そうした気づきは、決して大げさではなく、子どもをよく見ているからこそ生まれる大切な感覚だと言えます。
ここでは、その感覚を「早めの気づき」と考えます。早めの気づきとは、診断名を探すことではなく、日常の中で気になる様子を言葉にして整理し、早い段階で専門職と共有していく姿勢です。気になるサインをゼロにすることはできませんが、気づいたあとにどう動くかで、親子の安心感やその後の支援の選択肢は大きく変わっていきます。
日常の中の小さな違和感を、サインとして整理する
子どもの発達には大きな個人差があり、同じ年齢でもできることや興味の持ち方はさまざまです。そのうえで、いくつかの様子が続けて見られる場合、相談のきっかけになることがあります。例えば、視線がなかなか合わない、名前を呼んでも反応しにくい、指さしや身振りがほとんど見られない、からだの硬さやふにゃっとした感じが極端で動きが進みにくいといった状態が続くときです。
大切なのは、一度の場面だけで判断しないことです。眠いときや機嫌が悪いときには、どの子も反応が薄くなることがあります。数日から数か月のあいだに、どのくらい同じような様子が続いているか、家の中と外で違いがあるかなど、全体の流れで捉えることが役に立ちます。「気になる日が増えてきた」「以前できていたことが減ってきた」という感覚も、立派なサインです。
視線や名前への反応を、人とのつながりの手がかりとして見る
視線が合うことや名前への反応は、人とのつながりに関わる大事な動きです。遊んでいるときに大人の顔を時々見てくれるか、食事や身支度のときに名前を呼ぶとこちらを向くことが多いかなど、生活の中の場面で振り返ってみると、その子なりのリズムが見えてきます。見たい物や音に集中しているときには、呼んでも気づかないこともあるため、いくつかの場面を思い浮かべてみると良いでしょう。
指さしや身振りがどのくらい見られるかも、人とのやりとりを知る手がかりになります。指さして「見て」と知らせる、欲しい物に手を伸ばして大人の顔を見る、首を横に振って嫌がる気持ちを示すなど、ことば以外のサインが育っている場合は、コミュニケーションの土台がしっかりしていることも多いと言われています。一方で、ことばだけでなく身振りもほとんど見られない状態が続くときには、早めに相談してみる価値があります。
体の硬さや柔らかさを、動き方とセットで見守る
からだの使い方も、発達を見ていく大切なポイントです。抱っこをしたときに、全身が板のように硬く強く反り返ることが多い、反対に力が抜けすぎていて抱き上げると首や背中がぐにゃりとする、左右どちらかの手や足ばかりを使うなど、気になる様子が続くときには、運動の発達に関係している場合があります。厚生労働省の乳幼児健診の資料でも、運動機能の異常や左右差は確認しておきたい項目とされています。
ここで大事なのは、「少し不器用そうに見えるだけなのか」「日常生活に支障が出ているのか」を切り分けることです。転びやすさや走り方の癖などは、年齢とともに変わることも多く、一時的なものかどうかは専門職と一緒に見ていくと判断しやすくなります。保護者が感じた違和感をそのままにせず、一度言葉にしてメモしておくだけでも、相談の場面で役に立ちます。
健診や保健センターで、発達を立体的に見てもらう
地域で行われる乳幼児健診は、成長や発達の節目ごとに子どもの様子を総合的に見る場として位置付けられています。身長や体重といった身体計測だけでなく、運動、ことば、社会性、生活習慣などが全体としてどのように育っているかを確認するための質問や観察が行われます。厚生労働省が示している標準的な健診項目の一覧でも、精神発達や言語発達、運動機能の確認が重要な項目として挙げられています。
健診の場で、保護者は問診票に日常の様子を記入し、医師や保健師がそれを手がかりに話を聞いたり、子どもの様子を実際に見たりします。このときに使われる道具のひとつが、発達検査や発達評価の方法です。これらは合否を決める試験ではなく、今の発達のバランスを整理して、必要な支援や見守りの方針を考えるための地図のような役割を持っています。
遠城寺式や津守式を、発達の輪郭を知る手がかりとして使う
発達の評価に用いられる方法のひとつに、遠城寺式乳幼児分析的発達検査があります。これは、運動、社会性、基本的な生活習慣などの項目ごとに、子どもができていることを確認しながら発達の状態を分析的に見る検査です。短い時間で全体の輪郭をつかみやすく、健診や専門外来で広く使われてきた方法です。
もうひとつよく使われる方法に、津守稲毛式乳幼児精神発達診断法があります。こちらは、保護者が日常生活の様子について質問票に答える形で行う評価で、運動、探索、社会性、生活習慣、言語といった複数の領域ごとに発達の状態を整理します。子どもが緊張してしまう場面でも、ふだんの様子を手がかりに見立てを立てられる点が特徴とされています。いずれも、結果だけで子どもを決めつけるためのものではなく、得意な部分と時間がかかっている部分を一緒に確認するための道具です。
結果をラベルではなく、支援への入り口として受け止める
発達検査の結果には、発達年齢や発達指数といった数値が示されることがありますが、これはあくまでその時点の目安です。その子の全てを表すものではなく、成長とともに変化していきます。例えば、ことばの領域より運動の領域が先に進んでいる子もいれば、その逆の子もいます。どの領域が先に伸び、どこに時間がかかりやすいのかという「プロファイル」を知ることで、保護者と専門職が一緒に関わり方を考えやすくなります。
重要なのは、「標準から外れているから問題」という見方だけでなく、「この子はどのような力を持っていて、どこに手助けがあると過ごしやすいか」を考える視点です。結果に不安を感じたときこそ、医師や心理職、療育のスタッフに「家庭ではどんな工夫ができるか」「今後どのくらいの間隔で様子を見ればよいか」を具体的に質問してみると、次の一歩が見えやすくなります。
相談先を、あらかじめ知っておく安心感
発達に関する相談は、いきなり専門的な機関に行かなくてはならないわけではありません。いちばん身近な相談先は、住んでいる地域の保健センターや保健所です。乳幼児健診や育児相談の日には、保健師や看護師が子どもの様子や家庭での不安について話を聞き、必要に応じて小児科や児童発達支援センターなどにつないでくれます。自治体によっては電話相談やオンライン相談を行っているところもあります。
かかりつけの小児科も大切な相談先です。日ごろから風邪や予防接種で通っている医師であれば、子どもの成長の経過を見ているため、小さな変化にも気づきやすくなります。地域によっては、こども家庭センターや児童相談所が、発達に関する心理検査や専門相談を担当している場合もあります。夜間や休日に急いで相談したいときには、小児救急電話相談の番号が用意されており、看護師や小児科医が緊急度の判断や受診の目安について助言してくれます。
相談の前に、伝えたい内容をゆるく整理する
相談に行くときには、「どこが気になっているのか」をいくつかの場面で思い出しておくと、短い時間でも伝えやすくなります。例えば、名前を呼んだとき、食事のとき、遊んでいるとき、外出先での様子など、場面ごとに印象に残っている行動を書き留めておくと良いでしょう。可能であれば、ふだんの様子を短い動画に撮っておき、必要に応じて見てもらう方法もあります。
気になる点だけでなく、「ここはよく笑う」「この遊びが大好き」「きょうだいとはこんなふうに関わる」といった、その子の良い面や好きなことも一緒に伝えると、支援の方向性を考えやすくなります。相談は、問題を指摘される場というより、子どもの特性を一緒に理解していくための対話の場です。保護者が感じている迷いや戸惑いを、そのままの言葉で出してみることが、次につながる大切な一歩です。
気になるサインに気づくことは、決して親の心配性のせいだけではありません。毎日いちばん近くで子どもを見ているからこそ、細かな変化を感じ取ることができます。その感覚を否定せずに、早めに周りと共有することで、必要なときには専門的な手助けにつなげることができますし、結果的に「心配しすぎだった」と分かることもあります。どちらに転んだとしても、子どもと家族にとっての安心につながる動きだと考えてよいでしょう。
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