大学で芽生えたCLILの種
1990年代後半、授業改善の模索から始まる
バブル崩壊後の日本では大学改革が進み、学生の主体性と実践的な英語力を高める授業づくりが求められました。内容と言語を同時に学ぶという考え方を示すContent and Language Integrated Learning、通称CLILに注目した若手研究者が、留学先での知見を持ち帰って小さな講義から試行を始めます。英語と専門分野を一緒に扱う少人数授業は、当時まだ教科書や研修の整備が不十分で、担当教員が海外論文を読み込みながら指導案と評価基準を自作する挑戦でした。それでも、学生が英語を道具として使い、自分の考えを説明しようとする場面が確実に増え、継続実施が決まります。ここから本格導入へ道が開かれました。
2000年代前半、パイロット授業とネットワークの形成
2000年代に入ると大学間連携が広がり、CLIL導入校の教員が集う研究フォーラムが各地で開かれました。上智大学や関西外国語大学や立命館大学などがシラバスや評価方法を公開し、相互に批評し合う仕組みを通じて研修と実践が循環します。授業映像の共有により具体的な改善が見えやすくなり、学生アンケートでも英語への抵抗感が減り、専門理解が深まったという傾向が示されました。正規科目としての開講が一気に進みます。
上智大学の挑戦
上智大学では語学教育と専門教育の両立をめざす改革の柱としてCLILを位置付け、学内外の専門家を招いて授業設計と教員研修と効果測定を一体で進めました。正式科目化の後は、発表力と批判的に考える力の伸びが可視化され、理工系や国際系にも広がりました。学部横断で実践が根づいた点が特徴です。
関西外国語大学の実践
関西外国語大学は海外協定校との共同研究を足場に、ヨーロッパの先進校で研修した教員が帰国後に英語教員と専門教員の協働体制を整えました。グローバル経済や異文化理解といったテーマで、英語による討論やレポート作成を実施します。学会やシンポジウムで成果を共有し、日本の文脈に合うCLILの基盤づくりを後押ししました。
小中高への波及と政策の後押し
2010年代前半、自治体の研究校が先陣を切る
大学で育った成功例が教育委員会に伝わり、研究指定を受けた公立小中学校が理科や社会を英語で扱う授業を試行します。授業動画を公開して研究会を開き、英語支援員と協働しながら板書やワークシートを二言語で整える工夫が広がりました。実物や実験を介して理解する流れがあるため、児童生徒は英語の間違いを恐れず発話し、教科理解も深めるという好循環が報告されました。
埼玉県公立小の事例
埼玉県の公立小学校では総合的な学習の時間で環境を題材にCLILを導入し、地域の川を調べて水質や生き物の観察結果を英語で整理し、留学生に英語で発表しました。理科語彙と環境に関する言葉が増えるだけでなく、地域への愛着が育ったことが評価されています。
私立中高一貫校の探究カリキュラム
私立中高一貫校では探究学習とCLILを組み合わせ、気候変動や食品ロスなどの社会課題に取り組みます。英語で資料を集め、日本語で批判的に検討し、英語でまとめ直す往復を重ねることで、母語と外国語を相互に活用する力が伸び、思考力と表現力の向上につながりました。
2010年代後半、新学習指導要領の改訂
改訂学習指導要領が掲げる主体的で対話的で深い学びは、英語と他教科の連携を後押ししました。中学校英語では思考力と判断力と表現力を重視する評価観点が整い、CLILとの相性の良さが注目されます。英語の免許を持たない理科や社会の教員でも、英語支援の教員と協働して授業を設計する体制が整い、学校全体で言語と内容を統合する文化が芽生えました。
理念を教室で形にする工夫
問いを立てて調べて話し合い、多言語で発信するCLILは、新しい学びの理念を日常の授業に落とし込みやすい方法です。観察や仮説や実験や考察を段階的に整理し、ノートや発表に反映する設計により、自分で学びを調整する力が高まります。家庭でも、調べた内容を英語と日本語で言い換えて話すことで理解がいっそう深まります。
教員研修と教材開発の広がり
参考書やワークブックや授業動画が充実し、オンライン研修で授業設計と評価の手法が共有されました。専門用語をやさしい英語に言い換える技法や、発話を引き出す質問の設計が重視され、互いの授業を公開して学ぶ文化が定着しています。
2020年代、全国拡大フェーズ
2022年以降、学習指導要領の全面実施で加速
高校新課程の全面実施により探究学習と英語の授業が結びつき、資料読解と表現の力を問う評価が広がりました。英語で教科テーマを扱う授業が増え、入試対策と学力保証の両立が進んでいます。1人1台端末の整備が整ったことで、資料共有や振り返りをデジタルで行いやすくなり、CLILの学習履歴も追いやすくなりました。
探究と大学入試が後押し
総合的な探究の時間の成果発表やポートフォリオの重視が進み、CLILで培った英語での発信力が強みになっています。高校生が地域課題を英語で調べ、大学の専門家と議論する機会が増え、進路意識と国際感覚を同時に養っています。学校説明会でも具体的な成果が示され、保護者の関心が高まっています。
デジタル教材とオンライン研修の定着
オンライン授業の経験をきっかけに、バーチャル実験や海外博物館の三次元ツアーや翻訳支援ツールの活用が広がりました。教員は準備時間を抑えながら学習体験を豊かにし、国内外の研究者とつながる研修で最新知見を素早く授業に反映できるようになっています。
2025年現在、地域と協働する学校が増加
CLILは都市部だけでなく地方の小規模校にも広がりました。農業高校では作物栽培を英語で学び海外市場を調べ、漁業高校では海洋保全を英語文献で学ぶなど、地域資源と結びついた実践が増えています。自治体や企業と連携した発表会では、英語で地域課題を紹介し解決策を提案する生徒が目立ち、地域全体で学びを支える仕組みが育っています。
高大接続のモデルケース
大学は附属校だけでなく近隣の公立校とも協定を結び、CLIL型の出張授業を行っています。高校で探究したテーマを大学のゼミで英語発表し、教授と質疑を交わす体験が進学意欲を高め、入学後の学びにも良い橋渡しになっています。
保護者が期待する学びの変化
保護者は英語力だけでなく、思考力や課題解決力が伸びる点に注目しています。学校説明会では生徒が英語で研究成果を発表し、直接質問できる場面が増えました。家庭では授業で扱った話題を日本語で語り直し、関連ニュースを英語で読むなど、家での学び方にも良い変化が生まれています。
これからのCLILと家庭のかかわり
学習塾と家庭学習への広がり
学習塾でもCLIL的なコースが増え、理科実験やプログラミングを英語で体験する取り組みが広がっています。家庭向けには英語字幕付きの実験動画や多言語対応の図鑑アプリが登場し、親子で観察結果を共有しながら学べる環境が整ってきました。保護者が伴走者として、わからない点を一緒に調べる姿勢を持つことが探究心を育てます。
自宅でもできるCLIL的アプローチ
日常のテーマを英語と日本語で行き来するのが第一歩です。料理なら材料名や手順を英語で確かめ、味の変化や栄養を日本語で振り返ります。完璧な英語を目指すよりも、親子で調べながら進める姿勢を大切にすると、語彙が増え、理解が深まります。
子どもの興味を伸ばすポイント
子どもが選んだ題材を尊重し、英語と日本語を柔軟に使い分けられる環境を整えます。図鑑や映像資料を活用して疑問が出たら一緒に検索し、英語と日本語の資料を比べながら理解を深めます。難しい表現に出会っても大意がつかめたら十分だと伝えると、自信と好奇心が続きます。
関連記事はこちら
CLILの総合情報へ戻るのページでは、歴史と実践例と家庭での取り入れ方をまとめています。興味のあるテーマから読み進めていただけます。
参考文献と出典
CLILの定義と理論的背景
CLILの基礎理論と授業設計や評価の考え方を体系化した書籍です。
内容と言語の統合という視点から、実践に直結するフレームを提示しています。
CLILで頻出する用語を簡潔に整理した用語集です。学内研修や授業設計の基準づくりに役立ちます。
4Csやスキャフォルディングなどのキーワードを確認できます。
CLILの可能性と課題を整理したレビュー論文です。実践上の留意点を俯瞰できます。
動機付けや言語形式への配慮など、導入時の論点をまとめています。
日本の動向と大学の取り組み
国内の研究会や学会誌情報を集約する公式サイトです。最新動向の把握に有用です。
地域支部の活動レポートや研修情報が更新されています。
上智大学におけるCLILの狙いと成果を紹介する特集記事です。
授業デザインから学習成果まで、具体例とともに解説しています。
教員養成や学部横断の展開を扱う続編的な記事です。
日本への普及過程と大学内の広がりを時系列で示しています。
政策資料とICT整備
「主体的 対話的で深い学び」の方向性を解説した公式ページです。
全教科に関わる視点と関連資料が整理されています。
小学校2020年度、中学校2021年度、高校2022年度の実施スケジュールをわかりやすく解説しています。
移行措置と学年進行の考え方を確認できます。
1人1台端末や校内ネットワークの整備状況と関連通知をまとめた公式ページです。
制度の概要と最新の更新情報が参照できます。
GIGAスクールの目的と効果を図解した英語版リーフレットです。
1人1台端末による学習の変化を英語で確認できます。
