この記事は、発達や学びについて、1人の意見だけでなく、複数の研究や公的情報、さらに多くの研究をまとめて見た情報をもとに整理しています。
この問題が見ているのは、頭の中の組み立て力です
未就学児向けの図形分割で「いらない図形を見つける」問題を見ると、まだ早いのではと感じる方もいれば、受験に関係があるなら今のうちに触れておいたほうがいいのかと迷う方もいると思います。こうした迷いは自然です。小さい子に取り組ませる以上、何のためにやるのかが見えないまま進めたくはないからです。
結論から言うと、この問題の意味は、正解を急いで取ることよりも、形を見比べて、頭の中で組み合わせて、合うものと合わないものを見分ける経験を重ねることにあります。私はこれを、頭の中の組み立て力と呼びたいです。受験をする家庭にも、まだ決めていない家庭にも、この力はわりと共通の土台になります。
今回の問題集は、左の完成図に対して、右の候補から使わない形を1つ選ぶ構成で、やさしい、ふつう、むずかしいへと段階が上がる作りになっています。こうした形式は、形の名前を知っているかどうかだけでは解けません。どの形が必要かを想像し、向きや位置を頭の中で試し、似ているけれど違う選択肢を外していく力が必要です。
科学的に見ると、意味があるのはこの問題そのものより、この問題が使っている力です
ここは大事なところです。この問題集そのものを使った大規模研究がある、とは言えません。ですから、科学的に正確に言うなら、「このワークをやれば必ず伸びる」とまでは断定できません。
ただし、この問題で使う力については、かなり研究が進んでいます。図形を部分と全体でとらえる力、頭の中で向きを変えて考える力、位置関係を保ったまま形を組み替える力、まぎらわしい候補をしりぞける力です。これらはまとめて空間認知、つまり形や位置を頭の中で扱う力として研究されてきました。
2022年のメタ分析(1本の研究だけより、より全体的で信頼しやすい結論を出す分析)では、空間認知と数学の成績には中くらいの正の関連がありました。別々の研究をまとめても関係が残るということは、単なる気のせいではなく、一定のまとまりを持った結びつきがあると見てよい、という意味です。また、2020年の幼児期の空間認知トレーニングのメタ分析では、0歳から8歳の子どもに対する働きかけで、空間認知そのものは改善しうることが示されました。さらに、2022年のメタ分析では、空間認知のトレーニングが数学の成績にも移りうることが報告されています。
つまり、未就学児にこの問題をやらせる意味は、受験で出るから慣れる、という1点にとどまりません。形を扱う頭の使い方そのものを育てる可能性がある、というところにあります。
この問題で育ちやすい力は、主に4つあります
1. 形を部分と全体で見る力です
子どもがこの問題に取り組むとき、見ているのは1つ1つの図形だけではありません。どの形とどの形を合わせると左の完成図に近づくかを考えています。これは、部分と全体の関係をつかむ練習です。
未就学児の段階では、算数というと数を数えることに目が向きがちです。けれど、後の学びでは「いくつかの部分から1つのまとまりを作る」「全体をいくつかに分けて考える」という見方がとても重要になります。3歳児の空間構成課題を調べた研究でも、ブロックを組み立てる力は、同時期の初期の数学力と独立して関連していました。別の研究では、3歳から4歳の時点での空間認知と実行機能が、4歳時点の数学成績と強く関係していました。
この問題で「どれが余るか」を考えることは、ただ余りを探しているのではなく、必要な部品を見立てているのです。ここに意味があります。
2. 頭の中で向きや位置を変える力です
子どもは、図形を実際に動かさなくても、「こっち向きにしたら入るかな」「この形は反対向きなら合いそうかな」と考えます。これは、頭の中で形を動かす力です。研究では、心的回転、つまり頭の中で図形の向きを変える力や、心的変換、つまり位置をずらして重ね合わせる力として扱われます。
この力は、幼児期から個人差が見られ、パズル遊びや構成遊びとの関係も報告されています。2歳から4歳の自然なパズル遊びが、4歳半の空間変換課題の成績を予測した研究もあります。形を見て、向きを変えて、合うかどうかを試す経験は、紙のワークだけでなく、日常の遊びともつながっているのです。
図形分割の問題は、その遊びの中でも少しだけ言葉にしやすく、繰り返しやすい形に整えられた練習だと考えるとわかりやすいと思います。
3. 似ているものに引っぱられすぎない力です
この問題は、合いそうに見えるけれど実は使わない図形が入っているのが特徴です。ですから、子どもは「なんとなく似ているからこれかな」で選ぶと外れやすくなります。そこで必要になるのが、目立つ候補にすぐ飛びつかず、いったん確かめる力です。
研究では、こうした力は実行機能と呼ばれます。すぐ反応したい気持ちを少し止める力、見方を切り替える力、途中の情報を保ちながら考える力です。未就学児の数学の土台を調べた研究では、空間認知だけでなく、この実行機能も数学成績に大きく関わっていました。
受験のためだけでなく、先生の話を聞いてから考える、見本を見てから写す、手順を守って取り組むといった、入学後の学び方にもつながりやすい部分です。
4. 形についての言葉を増やすきっかけになります
未就学児では、考える力と言葉は切り離せません。大人が「それ、出っ張りが同じだね」「こっちは角が合うかな」「向きを変えるとどうかな」と声をかけると、子どもは見方を少しずつ言葉で持てるようになります。
親の空間に関する言葉かけが、子どもの空間に関する言葉を増やし、その後の空間課題の成績と関係していたという縦断研究もあります。つまり、問題を解くこと自体だけでなく、解く途中の会話にも意味があるということです。
この点は、家庭で取り組む大きな強みです。教え込む必要はありませんが、見ているポイントを短く言葉にしてあげるだけでも、子どもの理解の助けになります。
誤解しやすいのは、早く正解できる子ほど伸びる、という見方です
ここは1つだけ、先回りしてお伝えしたいです。この問題は、速さを競うものとして使うと、よさが薄れやすいです。幼児期は、答えが合うことより、どこを見て、どう考えたかが大切だからです。
たとえば、すぐに答えを言えなくても、「この2つは一緒に使いそう」「これは角の向きが違う」と言えたなら、それは十分に意味のある取り組みです。反対に、偶然当たっても、考える時間がほとんどなかったなら、学びとしては浅いことがあります。
小学校受験を考える家庭でも、答え合わせを急ぎすぎるより、「どうしてそう思ったの」と短くたずねるほうが、長い目では力になりやすいです。
受験をする家庭にも、まだ決めていない家庭にも意味があります
受験を考えている家庭にとっては、もちろん出題形式への慣れという実用的な意味があります。見慣れた形式は、それだけで本番の負担を少し下げます。ただ、それだけを目的にすると、問題が少し変わっただけで崩れやすくなります。だからこそ、形式への慣れより、頭の中の組み立て力を育てるという見方が大切です。
まだ受験を決めていない家庭にとっても、この種の課題は意味があります。形を見て考える力は、工作、積み木、パズル、模写、地図、算数の図、さらには文字の配置を見分ける場面にもゆるやかにつながっていきます。すぐに何かの点数へ直結するとは限りませんが、学びの入り口で役に立ちやすい土台だと言えます。
祖父母の立場から見ても、「受験をさせるための問題」とだけ受け止めなくて大丈夫です。遊びと学びの間にある、ちょうどよい橋渡しとして考えると、無理が出にくいです。
家庭で取り組むなら、正解より見方を育てると続きやすいです
まずは、短く終えることです。未就学児なら、5分から10分でも十分です。集中が切れたところで終えるほうが、次につながりやすくなります。
声かけは、「ちがうよ」より、「どこが合いそうかな」のほうが向いています。「この角、同じかな」「向きを変えたらどうかな」「使わないのはどれだと思う」といった短い言葉で十分です。子どもに説明を長く求めすぎなくても大丈夫です。
紙の上だけで難しそうなら、実物に置き換えるのもよい方法です。同じような形を紙で切って並べたり、積み木やマグネットで試したりすると、理解の入口が開く子は少なくありません。頭の中だけで組み立てるのが難しい時期には、手を使って確かめることが助けになります。
また、難しい問題に進むことより、ちょうどよく迷える問題を続けるほうが大切です。毎回すぐ解けるなら少し簡単すぎますし、毎回ほとんど手が止まるなら少し難しすぎるかもしれません。少し考えて、できた、という感覚が残るくらいが続けやすいです。
いちばん大切なのは、この問題を家庭の不安に変えないことです
未就学児の学びでは、始める時期より、どんな空気で続けるかのほうが大きいことがあります。図形分割の問題は、うまく使えば、形を見る目と考え方を育てるよい材料になります。けれど、毎回の正誤で大人が不安になったり、子どもが「間違えるといやだ」と感じたりすると、本来のよさが出にくくなります。
この問題の価値は、子どもに早く答えを出させることではなく、「見て、試して、気づく」という学び方を少しずつ身につけていけるところにあります。受験をするかどうかにかかわらず、その経験には意味があります。
ご家庭で取り入れるか迷っているなら、「この子は形を見比べる遊びが好きそうか」「少し考えてできると嬉しそうか」「親子で落ち着いて5分だけやれそうか」という視点で考えてみてください。そのくらいの判断軸でも、十分に実用的です。
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参考文献
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Yang, W., Liu, H., Chen, N., Xu, P., & Lin, X. (2020). Is Early Spatial Skills Training Effective? A Meta-Analysis.0歳から8歳の子どもを対象にした空間認知トレーニング研究をまとめ、幼児期の空間認知は働きかけによって伸びうることを示したメタ分析です。
Hawes, Z. C., Gilligan-Lee, K. A., & Mix, K. S. (2022). Effects of spatial training on mathematics performance: A meta-analysis.空間認知のトレーニングが数学成績へ移るかを検討したメタ分析です。効果の大きさには幅があるものの、空間経験を数学の土台づくりとして考えるうえで重要な文献です。
Verdine, B. N., Golinkoff, R. M., Hirsh-Pasek, K., Newcombe, N. S., Filipowicz, A. T., & Chang, A. (2014). Deconstructing Building Blocks: Preschoolers’ Spatial Assembly Performance Relates to Early Mathematics Skills.3歳児の空間構成課題と初期の数学力の関係を調べた研究です。部分と全体を組み立てる力の意味を考えるうえで参考になります。
Verdine, B. N., Irwin, C. M., Golinkoff, R. M., & Hirsh-Pasek, K. (2014). Contributions of Executive Function and Spatial Skills to Preschool Mathematics Achievement.未就学児の数学の土台に、空間認知と実行機能がどう関わるかを示した研究です。数の知識だけでは見えにくい基礎力を理解する助けになります。
Levine, S. C., Ratliff, K. R., Huttenlocher, J., & Cannon, J. (2012). Early puzzle play: A predictor of preschoolers’ spatial transformation skill.2歳から4歳のパズル遊びと、その後の空間変換課題の成績の関係を示した研究です。家庭での取り組みの意味を考えるうえで役立ちます。
Pruden, S. M., Levine, S. C., & Huttenlocher, J. (2011). Children’s spatial thinking: Does talk about the spatial world matter?大人の空間に関する言葉かけと、子どもの後の空間課題の成績との関係を示した縦断研究です。家庭での声かけの意味を裏づけます。
