読めない、書けないを越える、短時間の遊び習慣
夕食のあと、片づけの音が落ち着いたころに、子どもが机の端で指を動かしはじめます。紙に書く前に、空に大きく形を描いてみるだけでも、ことばと文字は少しずつ近づいていきます。3〜5歳の時期は、読めるかどうかより、触れてみたい気持ちが続くかどうかが大切です。
短い遊びを、毎日の合図にして置いておくと、できない日があっても戻りやすくなります。ここでは、遊びながら文字の形と音をつなぎ、書く動きの負担を減らしていく工夫を、家庭で無理なく続けられる形に整えます。
遊び、10分を合図にする習慣
ここでの合言葉は、遊び、10分です。つまり、短い時間を同じタイミングに置き、気持ちよく終わる約束を先に作るやり方です。長く頑張るより、短く戻れることが効いてきます。
始める場所は、机でも床でも構いません。大事なのは、親も子も構えすぎないことです。終わりの合図も先に決めておくと、子どもは見通しが持てます。時計を見せるのが合う子もいれば、歌を1曲で終えるほうが落ち着く子もいます。家庭に合う合図で十分です。
遊びの始まりは、できる形からで十分です
読めない、書けないが気になっても、最初から紙に向かわせると息切れしやすいです。文字は、目で見て、耳で聞いて、体で感じるほど覚えやすくなると言えます。ここでは、体を使った入り口を先に作ります。
空書き、形を指でなぞる遊び
文字の形は、空に指で描く空書きが始めやすいです。背中に指で書いて当てっこをしたり、テーブルの上を指先で大きくなぞったりすると、手の動きが先に慣れていきます。鏡が曇る季節なら、指で丸や線を描くだけでも気分が上がります。
積み木や毛糸で、形を作ってみる遊び
紙に書くのがまだ重い子には、積み木や毛糸で形を作る活動が合うことがあります。曲がる毛糸で丸みを作り、積み木でまっすぐな線を置くと、形の特徴が手触りとして残ります。ここで正しさを詰めるより、形の違いに気づけたら十分です。
音と文字をつなぐ、名前からの近道
音と文字の結びつきは、好きなものから始めると続きます。最初に扱う言葉は、子どもの名前や、毎日口にするものが便利です。親の説明が少なくてすみ、子ども側のやる気も揺れにくくなります。
たとえば、名前の最初の音に注目します。音に気づく力(聞こえた音の違いをつかむ力)が育つと、のちの読みにつながりやすいと言えます。ここでは難しいルールを増やさず、同じ音で始まる言葉を一緒に探すだけで十分です。
英語を混ぜるなら、フォニックスを遊びにします
英語も気になる家庭では、フォニックス(英語の文字と音の結びつきを学ぶ考え方)を、勉強ではなく遊びとして扱うと続きやすいです。アルファベットを全部覚える必要はありません。子どもが気に入った歌の中に出てくる文字や、身近な単語の頭文字からで構いません。
ここでも、音が先です。歌を口ずさみながら、その音で始まる単語を1つだけ一緒に言ってみます。次に、同じ文字を空書きで大きく描いて終わりにします。短い往復が、無理のない橋になります。
書く動きは、太めの道具でゆっくり整えます
書く段階に入ると、子どもは力を入れすぎて疲れやすいです。そこで、太めの筆記具を使い、ゆっくりなぞるところから始めると負担が減ります。線を速くきれいにするより、手が固まらずに動くことを優先します。
なぞりは、長い時間は不要です。短く終える約束があるほうが、次につながります。手首が苦しそうなら、紙を斜めに置いたり、肘の下にクッションを入れたりして、姿勢が楽になる工夫をすると変わることがあります。
ほめ方は、できた場所を言葉にします
ほめるときは、うまいねよりも、どこが良かったかを短く伝えるほうが効きます。線がゆっくりになった、最後までやり切った、音をよく聞いて当てられた、そうした小さな変化が次の挑戦につながります。親の目が具体に寄るほど、子どもは安心しやすいです。
視点を少し変えると、親の負担も軽くなります
子どものためにと思うほど、毎日やらなければと追い込みやすいです。でも、家庭の習慣は、親が回せる形であることが大前提です。忙しい日は、空書きだけで終えても構いません。声に出すのが難しい日もあります。その日は見て終えるだけでも、触れた経験は残ります。
さらに言えば、読み聞かせの時間も立派な土台になります。文字を教え込む時間ではなく、同じ本を繰り返し読んで、ことばの流れを一緒に楽しむ時間です。文字に触れる機会は、遊びと会話の中に点在させるほうが続きやすいでしょう。
誤解しやすい点を押さえ、家庭の範囲で続けます
この工夫は、早く読める子にするための特訓ではありません。嫌にならずに触れ続けるための土台づくりです。子どもが強く嫌がるときは、やり方が合っていない合図です。空書きや形づくりに戻し、時間をさらに短くしても十分です。
気になる様子が長く続く場合は、家庭だけで抱え込まないことも大切です。聞こえ方や発音、手の動かし方など、別の要因が隠れていることもあります。園やかかりつけ先に相談し、子どもに合う支え方を一緒に探すと安心です。
小さな繰り返しが、いつか自信の形になります
成果は急に見えないことが多いです。それでも、遊び、10分を積み重ねていると、ある日ふと、子どもが自分から形を描きはじめたり、名前の文字を指さしたりします。始まりは小さくて十分です。今日の短い遊びが、明日の落ち着きにつながっていくでしょう。
おすすめ教材はこちらPR
関連記事
参考文献
幼児期に、文字への関心を育てる考え方
文部科学省, 幼稚園教育要領 幼稚園教育要領の該当ページを見る
生活の中で、標識や文字に触れる環境づくり
こども家庭庁, 保育所保育指針解説 保育所保育指針解説を見る
読み書きへの興味と、かな読みの育ちの関係
丹治敬之, 4歳児における読み書きの興味はかな読み習得の関連要因である 論文ページを見る
読み聞かせと、早期リテラシー支援の推奨
American Academy of Pediatrics, Early Literacy AAPの早期リテラシー情報を見る
音への気づきとフォニックスなど、読みの基礎研究の整理
National Reading Panel, Teaching Children to Read 報告書PDFを見る
音への気づきと文字知識を組み合わせた実践の評価
Institute of Education Sciences, What Works Clearinghouse 介入レポートを見る
4歳前後の発達の目安としての、描画や細かな動き
CDC, Milestones by 4 Years 発達の目安を見る
見る、聞く、動かすを組み合わせた学びの研究例
Schlesinger, Gray, The impact of multisensory instruction on learning letter names and sounds PubMedで概要を見る
